合格発表の日
「おめでとう」
あの日何よりも嬉しかったのは貴方からの一言でした。
合格者の受験番号の貼り出された玄関前にはまだたくさんの子がいる。それを校門の側から眺めている私も、さっき自分の番号があるのを確認して、一緒の高校に通えることになった親友と喜び合い、別れたところだった。
これから、同じ塾に通っていた友達と、塾の先生に合格を報告しに行く約束をしているのだ。人が多くて、彼女の姿を見つけることは出来ないけれど。
両腕で大事に抱えている封筒を覗き込んだ。なかには合格通知や受験票、登校日の書かれたプリント、部活勧誘のビラなんかも入ってる。
嬉しくなって、自然と笑みが零れた。
「……合格したんだね。おめでとう」
そう声をかけてくれたのは、同じクラスだった男の子。
私は彼が好きだった。特に行きたい高校があった訳ではない私がこの高校を受験したのは、彼が推薦で合格が決まっていたから、という不純な動機もちょっぴりある。
「ありがと……」
突然のことに私は、たった一言しか返せない。そんな私を貴方は笑った。
「また同じ学校だね、よろしく。その封筒って何処でもらえるの?」
「あ、推薦で合格してたもんね。遅くなっちゃったけど合格おめでとう。あそこ、合格発表してるところから玄関入って中の人に受験票を見せるとくれるよ」
「分かったありがとう。じゃぁまた学校で」
「うん……」
あの日のこと、覚えててくれてるのかな?
結局、高校で同じクラスになることはなかったし、あれから話す機会もほとんどないまま卒業してしまった。何処に進学したのかも知らない。
私は廊下で貴方とすれ違うだけで、ふとした瞬間に目が合うだけで、幸せでした。